院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

23 December

概説書の利用法

 研究を始めるにあたって,また何か新しいことを学び始めるにあたって,もっとも心強い友はよい概説書である。
 概説書は何も通読しなくてもよい。自分の興味・関心の対象が,当該学問分野でどのように扱われているかを知ること,つまり自分の関心を学問分野のなかで「定位」することのために用いることができる。自分が学びたいと思っている主題が,大きな学問分野のうちどの下位分野で研究されているのか,どのような方法論で研究されているのかを知ることができる。まずは目次や索引などから自分の興味の対象が概説書のどこに書かれているかを見つけ,その部分を読み,必要と思われる他の部分に読む範囲を広げていけばよい。このために,目次や索引がしっかりしていることが「よい概説書」の条件の1つであると言えるだろう。
 また,次に読むべきものが示されていることも大切だ。きちんとした概説書には,「文献解題」やFurther Readingといった項目が,章ごと,または巻末に一括して設けられている。もちろん参考文献表が別にある場合も多いが,単に参考文献を挙げてあるだけでなく,初学者が読むべき文献に絞って紹介し,その内容や意味についても解説してあるのがよい。
 こうして「次に読むべきもの」をたどっていくと,だんだんと対象範囲が狭まってくる。ある学問分野の概説書から,その下位分野の概説書,さらに具体的なトピックを扱った本へと自然に導かれていく。そこから先は個々の論文にあたっていくことになるだろう。このプロセスを通して,興味の対象も具体的に絞り込めてくる。「学びの好循環」と言ってもよいだろう。
 これで自分の疑問が一通り解決できればそれでよい。しかし,学問の奥深さのために,上記のプロセスだけでは疑問が十分に解決できない場合も多い。ここで「大学院での研究」に対する必要が生じ,それを希望することになる,というのが理想だ。ここまでの勉強がきちんとできていれば,研究計画書を書くのも比較的容易であるはずだ。
 逆に,大学院進学を志しているが研究計画がうまく立てられない,という人は,上で説明したプロセスをきちんとたどってみるとよいだろう。これにより,自分の研究したいことが学問分野のなかできちんと定位でき,先行研究についてもある程度は把握できるからだ。
23:38:20 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

03 December

和英辞典の限界?—比喩的な意味の「風通し」

 院試塾のコラム『当節徒然草』の記事「英作文の考え方」でとりあげた英作文問題を,まずは見ていただきたい。

日本は万事全体主義の国で,イギリス的個人主義はどうも協調性がないとか,偏屈であるとかいう汚名のもとに忌避される傾向がある。私自身は,子供の頃から,団体で何かをしたいとか,皆がそうするから自分もそうする,とかいう考えは全くなかった。それゆえ,日本の団体社会ではどうも暮らしにくいところがあったけれど,イギリスに渡ってみると,この国が非常に住み易い,気持ちのよい国であることにすぐ気がついた。そして,その気持ちの良さは,景色の良さや気候の快適さといったような表面的なことに依るのではなく,じつはこの国の個人主義的社会の風通しの良さによるものだったと気づくまでに,いくらも時間はかからなかった

この「風通しの良さ」をどのように訳せばよいかを,和英辞典でどこまで調べることができるだろうか。
 まずは,電子辞書での和英辞典の定番である『ジーニアス和英辞典』を見てみると,「風通し」の項には文字通りの意味しか載っていない。『プログレッシブ和英中辞典』を見てもだいたい同じだ。ちなみに,「この家は風通しがよい」は,『プログレッシブ和英中辞典』ではThis house is well ventilated.となっている。
 比喩的な「風通し」が載っている和英辞典はないか。『新和英大辞典』を見てみると,文字通りの意味の他に,「組織などの開放性」として,openness; an open atmosphereとある。例文は2つで,1つは「執行部が若返って党内の風通しがよくなった」With a new, younger leadership, the party took on a fresh, more open feel.と,「従業員の発言の機会をふやして社内の風通しをよくしたい」I would like to create a more open atmosphere in the company by giving employees a greater chance to have their say.である。『広辞苑』の「風通し」の項には「比喩的に組織内の情報の通い具合にも用いる」とあり,上の2つの例はいずれもこの意味を英語で言い表したものと考えられる。
 これらの表現を,上で見た問題に当てはめることはできるだろうか。「この国の個人主義的社会の風通しの良さ」もopennessを用いて表すことは不可能ではないと思われるが,もう少しぴったりの表現があるように思える。ぼくが出したひとつの結論はfreedomを用いる,というものだ。詳しい検討過程等については,コラムの記事をご覧いただきたい。
 『新和英大辞典』はすごい。しかし,そこにある表現がそのまま使えるとはかぎらない。結局,辞典の記述は「素材」ないしは考える「出発点」とはなるが,鵜呑みにするわけにはいかないのだ。
11:38:40 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

01 December

動詞winの用法—1対1対応を越えて

 英語の動詞winの用法を正しく理解しているだろうか。「win=勝つ」ではきちんと使えない。以下の例をまずは検討してほしい。

  1. The Tigers won the game yesterday.

  2. The Tigers won the pennant.

  3. *The Tigers won the Giants.


 結論から言えば,3.の例からわかるように,win <相手>という形では使えないのだ。英和辞典を見ると,たとえば『プログレッシブ英和中辞典』では,「<試合・戦争などに>勝つ」という語義のところで「この意味では目的語に人はこない」という注記がある。
 もちろんこの注意をそのまま覚えてもよいのだが,1.~3.を統一的にとらえることはできないだろうか。というのも,1.は「(〜に)勝つ」ととらえて問題ないが,2.はこのようにとらえることはできず,『プログレッシブ』では2番目に挙がっている「…を得る,獲得する」という訳語を充てる必要がある。そして,すでに確認したように,3.は「〜に勝つ」と言えても英語のwinでは表現できないのだ。
 winの目的語として立ちうるものを幅広く検討すると答えが見えてくる。win a game / the war / the electionに加え,上で見たthe pennantやthe gold medal / $100,000 (on the lottery),さらにはapprovalやrespectなども目的語となる。これらはいずれも「(勝って)取る」ものだ。つまり,winの基本的意味は「勝ち取る」なので,人を目的語にすることができない,と考えられるのである。1対1対応では覚えるべき量がどんどん増え,しかも相互の関連は見えてこないが,このようにとらえることで,3.がダメなことはもちろん,なぜ2.の意味もwinで表現できるのかがわかるのである。
 ついでながら,「<人>に勝つ」は何と言うか。『ジーニアス英和辞典』には,「『〈人・相手〉に勝つ』はdefeat,beatを用いる」と親切に書いてある。3.はThe Tigers defeated / beat the Giants.と言えばよいのだ。
 あわせて注意が必要なのは,自動詞のwinは「相手に勝つ」という意味で用いることができ,win over ~ / against ~と言える。他動詞と自動詞で主語が変わらない場合,目的語の省略によって自動詞が生じている場合が多く,この場合もこう考えることができるかもしれない。win a game against ~であると考えるわけだ。ただ,この点についてはさらに検討を要すると思われる。
19:30:40 - yhatanaka - No comments - TrackBacks