院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

29 January

履修主義と習得主義

 1月29日付『朝日新聞』第9面の「時流自論」で,本田由紀氏が「教育再生会議を批判する」というコラムを書いている。学力向上と授業時間数増大との関係を主に論じたものだが,個人的には「[成績下位層の比率が増え,その点数も下がる『底抜け』帽子のために]生徒が一定の習得水準に達したことを確認した上で進級・進学を認めるしくみの導入,すなわち履修主義から習得主義への転換を図ることが求められる」という一節に強く賛成したい。そして,これは大学や大学院にも求められるものであると思う。
 そもそも,現在の教育が抱える問題の1つは,成績・単位・卒業証明がもはやあまり意味を持たなくなってしまっていることだ。もちろん,個人にとってある部分での「意味」は大きいかもしれない。しかし,簡単に言ってしまえば,もはや社会がそれらを信用する十分な根拠はないと考えたほうがよい。たとえば「高校」を卒業したという事実それ自体がどれだけの意味を持つかを考えてみればよい。これは「大学」でも「大学院」でもさほど変わらない。
 たしかに,これらは「最低基準」としてはある程度機能するかもしれない。しかし,本来ある種の「品質保証」であるはずの卒業証明は,もはやその機能を失ったと言わざるをえないだろう。「大学」全般ではなく「○○大学」にしてみたところで,事情は大きく変わらないだろう。社会としても,これがある程度皮膚感覚としてわかっているのではないか。
 教育に市場原理を導入した以上,習得主義という理想を持ち込むことがどこまでできるか,ぼくは疑問を感じる。生徒や学生はお客様であり,そのお客様の満足を第1に掲げながら,習得主義を徹底することはほぼ不可能だろう。「こういう卒業生を創る」という明確なビジョンのもと,それを徹底するのであれば可能かもしれないが,本来大学生のレベルにまで達していない学生をどんどん入学させ,本当であれば大学本来のやるべきことをやっているはずの時間に,「レメディアル教育」を行ってそれを単位として認定している大学の卒業証書を他の大学のものと同等と見ることは難しい。こればかりではない。レメディアル教育を行っていない大学では,レメディが必要な学生もそうした教育を施さずにどんどん「垂れ流し」ている場合もあるのではないか。グレード・インフレーションは現実に起こっている。
 また一方で,習得主義の徹底は大きな混乱ももたらすだろう。そもそも,個人の能力をはっきりと測定することはきわめて難しく,仮に可能であるとしてもかなりの時間と労力を要する。成績・単位・卒業証明が社会から受け入れられているのは,これらが一種の「バイパス」になるからだ。つまり,個人が進学する次の学校や就職する企業は,自分で個人の能力を測定する代わりにこれらの指標を利用するのである。これらがなくなってしまったときに,学校や企業が個人の能力をすべて自分で測定することなどほぼ不可能である。
 しかし,この制度のほころびが見えてきている。最近問題になっている「ディグリー・ミル」などはその一例だろう。ぼくの見るところでは,大学も制度崩壊の一歩手前まで来ているし,大学院の修了証書ももはや大して信用できないところまで来ていると思う。
 1つ変わらないことがもしあるとするなら,学ぶとはたしかな力をつけることであり,教育とはそのための場と援助を提供するものであるということだ。制度を守ることは無理かもしれないが,学びや教育が完全になくなることはない。
19:59:09 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

20 January

SII SR-G10000—英語専門電子辞書の最高峰

 昨年11月に発売になった,SIIの最新電子辞書SR-G10000を入手した。SR-E10000の後継機に当たる。
 コンテンツの最大ポイントは,研究社『新英和大辞典』を収録していることだろう。現行機種では唯一である。これで研究社大英和,ランダムハウス,ジーニアス大英和の3つの大辞典がすべて電子辞書で使えるようになった意味は大きいと思う。
 なお,他にもSR-E10000に収録されていた英和辞典『ジーニアス英和大辞典』『リーダーズ+プラス』が収録されている。英和活用が収録されている点も変わりはない。
 メインの英英辞典がCOBUILDである点もE10000と同じで,Wordbankも同じように収録されている。和英辞典も研究社大和英。Britannicaの百科事典も日英を搭載。
 国語辞典はE10000の広辞苑から大辞泉+明鏡に変更。言葉遣いを記述する国語辞典を,という考えによるものと思われる。明鏡は高校生用と思われがちだが,日本語を「使う」という観点から見ると大人でもいろいろと使える辞典だ。他に大修館の『日本語大シソーラス』(類語辞典)が入っているが,これは小学館の『類語例解辞典』に代わるものだ。表現の幅を広げるという意味では前者のほうが優れていると思われるが,使い分けを詳しく記述している後者もまた捨てがたい。ここは好みや用途によって判断が分かれるところではなかろうか。
 機能面での大きな変更点は液晶画面だ。VGAの精細表示となり,表示できる情報量はかなり向上した。また,見た目もずいぶんときれいである。精細表示が可能になったため,従来の表示形式に加えて「全文」表示(例文もすべて最初から表示)も選択できるようになった。他に,画面を上下に2分割して,上半分には訳語のみ,下半分に対応する内容を表示する「早見」表示もあり,これは「訳表示切替」キーで切り替える。
 「表示スタイル」の切り替え機能もある。一般の辞書画面では表示が少し変化するだけだが,例文検索の結果画面では,キーワードを中心に揃える,いわゆるKWIC形式の表示が可能になる。これはWordbankを使って調べるときには特に有効だろう。
 さらに,多くの情報が表示できる液晶画面を活用した機能として「ツイン検索」機能がある。これは,画面を2分割してべつべつの辞書を引き比べるためのものだ。
 リチウムイオン電池を使うようになったことも大きな変更点と言えるだろう。充電にも使うACアダプタも付属している。これがいいかどうかは微妙なところかもしれない。外出先で電池がなくなったとき,乾電池ならコンビニで簡単に入手できるが,充電池だとそうはいかない。外で使う機会が多い電子辞書だけに,電池の残量には注意したい。無線機などでは専用充電池と乾電池の両方が使えるように電池ケースも付属している場合があるが,こうした対応も今後考慮してほしい。ただし,SIIとしてはすでにDr. VOICE Neoでリチウムイオン電池を採用しているので,実績ありと考えたのかもしれない。
 最後に,この辞書は「買い」か? ぼくは発売の時から買おうと思っていた。けっして買って損はない辞書だと思う。実売64,000円(Amazon.co.jp)が高いか安いかは,結局買った本人次第と言うことになるだろうか。使い込めば十分「元は取れる」だろう。

19:37:39 - yhatanaka - No comments - TrackBacks