院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

26 May

insightの訳語

 insightという語はどうも訳しづらい。辞書を引いても「洞察」「見識」などというわかりづらい訳語が並んでいる。こうした訳語では明らかにうまくあわない文章に出会ったので,照会したうえで考えていくことにしたい。

The dementia associated with Alzheimer's disease is particularly distressing for those who care for the patient. The patients lose memory and intellectual function and have little insight into their illness; they are unable to recognize close family or friends; they may develop unpleasant and distressing psychotic and aggressive behaviour, and yet at first show little or no sign of physical illness. (Leslie Iversen (2001) Drugs: A Very Short Introduction. p.119)

この文章に出てくるinsightは「洞察」や「見識」と訳しても意味不明である(もっとも,認知症に関して「見当識」が問題となることはあるが)。下線部を訳すなら,「自分の病気のことがほとんどわからない」といったところになるだろう。
 例によって英英辞典を引いてみよう。COBUILDを見ると,If you gain insight or an insight into a complex situation or problem, you gain an accurate and deep understanding of it.とある。たしかにaccurate / deepという修飾語はついているが,要するにunderstandingということだ。さらにLDOCEを見ると,the ability to understand and realize what people or situations are really likeとあり,この意味は上記引用にかなり正確に対応するように思える。英和辞典にも「十分にわかること」といった訳語を加えたほうがよいのではないだろうか。
 「洞察」や「見識」という訳語にはたしかに一理ある。特に「洞察」はよく考えられた訳語だと思う。insightはそもそもin+sightで,「中をよく見ること」が原義である。「洞」は「ほらあな」でinに通ずる部分があるし,「奥深い」という派生的意味もある。しかし,英文の内容をわかりやすくとらえるということになると,insightの実際の用法とはうまく合わない部分も多いのではないか。
 上の引用でもう1つ解釈に注意すべき語がある。develop unpleasant and distressing psychotic and aggressive behaviourのdevelopだ。「開発する」「発達させる」ではもちろん×で,「発現させる」も間違いとは言えないかもしれないがよくわかっていればそういう訳語は充てないだろう。behaviourとの関連で言うと,「するようになる」といったあたりになる。
21:06:05 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

ミルキーはママの味

 誰もが知っている有名なフレーズだ。CMソングも思い浮かぶだろう。しかし,「ママの味」とはいかなる味なのか。ミルキーを食べながら袋を見てふと考えた。まさかママの粉末やエキスが入っているわけでもあるまい。
 日本語の「の」という助詞は守備範囲が広く,「AのB」というときのAとBとの意味関係も多岐にわたる。B=味の場合だけを考えても,たとえば「ママの味」と「おふくろの味」では内容がずいぶん変わってくる。「おふくろの味」と言えば味噌汁や肉じゃがなど,母親が作ってくれた懐かしく思い出される料理で,家庭ごとに特徴的な味があるもの,というイメージでとらえられる。「味」が「料理」という意味になるのも「ママの味」とは異なる。「名古屋の味」などというのもやはり料理だ。
 さて,「ママの味」とはいかなる味か。「ミルキー資料館」には以下の記述がある。

新製品が幼児を対象とし「ママの味」をキャッチフレーズとする構想は、このころすでに固まっていました。だから新製品は、母親の愛情を表すようなやわらかい味、母乳のなつかしさを感じさせるようなお菓子でなければ。

つまり,「ママの味」とは懐かしい母乳のような味,ということだ。
 もう1つお菓子の話題を。「アポロ」というチョコレート菓子がある。この名前はアポロ宇宙船に由来する。あの形が,アポロ宇宙船の地球に戻ってくる司令船モジュールに似ているのだ。しかし,明治製菓お客様センターQ&Aページによると,それだけでもないようだ。「昭和初期にギリシャ神話の太陽の神「アポロン」から「アポロ」という商品名を考え、名前を商標登録して」あったそうなのである。もっとも,アポロ計画もアポロンから名前をとったもののようだから,2つの系統はつながっているわけだ。
20:29:22 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

06 May

cureとtreatment―類義語の区別

 cure / treatmentという類義語の区別については,以前院試塾サイトのコラムでとりあげたことがある。今回,この2つの違いがよりはっきり表れている文に出会ったので,紹介しておきたい。

Schizophrenia is a fairly common illness, and drug treatment, although not a cure, has been of great benefit to millions of patients worldwide. (Leslie Iversen (2001) Drugs: A Very Short Introduction. p.60)

 コラムの記事にも書いたが,treatmentは特定の治療行為を,cureは病気などが完全に治癒することを指す。ここでも,treatmentではあるがcureではない,とあるから,薬を服用することで症状は改善するが,完治するとは言えない,という意味を表していることがわかる。これを「薬物治療は,治療ではないが,…」としてもまったく意味不明である。これに気づいて辞書を引くことが,読解力の増強に大きく役立つ。
16:22:15 - yhatanaka - No comments - TrackBacks