院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

14 August

Word Watching

 言語にもともと興味があり,言語学を専門としたせいか,普段からいろんなことばが気になる。いつも専門的な分析を持ち合わせているわけではないけれど。
 最近コンビニで見かけた女性誌の表紙の見出し。「夏休み激ヤセカレンダー」とあった。ぼくの語感では,「激ヤセ」というのは病的なものだという感覚があるが,この文脈では明らかに好ましいものを表すのに用いられている。だんだんと使われかたが変わってきているのだろうか。
 そういえば,「ヤバい」ということばが肯定的な意味で用いられるのをはじめて耳にしたときのことを思い出した。ファミリー・レストランで食事をしているとき,若い男性が一口食べて「これ,ヤバい」と言うのを聞いて「何か悪いものでも入っていたのかな」と感じたのだが,その後の話から「おいしい」の意味で用いていることが判明。その後この用法にはずいぶん出会っているが,「オレ,かなりヤバいよ」というのを聞くとやはり違和感がある。
 続いてはTV CMから。「バルサンするならバルサン」というキャッチ・コピーを耳にした。「バルサンする」の「バルサン」は一般名で,「引っ越したらまずはバルサンしないと」と言って,たとえばアースレッドを使ったとしても,ぼくのように特に細かい人間でなければあまり突っ込まないのではないだろうか(個人的には,ここで突っ込む人がたくさんいてくれるととてもうれしい)。CMのコピーもこういう意図で「バルサンする」と言っていると考えられる。これに対して,最後の「バルサン」は商品名である。このコピーを翻訳するなら,「蒸散式殺虫剤をつかうなら『バルサン』をどうぞ」といったあたりになるだろう。
 これはだいぶ前のことになるが,俳優の杉浦太陽が逮捕されたときのスポーツ紙の見出しが「ウルトラマンコスモス逮捕」だった。これを見て思わず,ウルトラマンコスモスが手錠をはめられ頭からジャンパーをかぶって,うつむいて「ジョワッ」と言っているシュールな絵を一瞬想像してしまった。ウルトラマンコスモスの中に入っているのは杉浦太陽ではなく,彼はあくまでウルトラマンコスモスに返信するという設定のムサシ隊員役の俳優でしかないのだが,文脈が整えば「ウルトラマンコスモス逮捕」で杉浦太陽が逮捕されたのだと十分わかる。これなどは,ジル・フォコニエの「メンタル・スペース」理論で解決できる問題だ。
 最後に最近気になっていることを1つ。「プチトマト」と「ミニトマト」は何が違うのだろうか。ぼくは最初,以前「プチトマト」と言っていたものが最近では「ミニトマト」とも呼ばれるようになったのだと思っていた。しかし,授業中の雑談でふってみると,「おばあちゃんもミニトマトと言う」という生徒がいた。もちろん,そのおばあちゃんが最近「ミニトマト」ということばを覚えたことも考えられるが,時代とともに呼び名が変わったという可能性以外も考えてみる必要がありそうだと感じた。一方で,栽培されるようになったときの品種名が「ベティ・トマト」で,これが「プチトマト」(フランス語で「小さい」を意味する形容詞はpetit(e))となったとする説もある。次に考えたのは地域差で,これを裏づけるように思える観察事例もあるのだが,反例も多い。さらに,そもそも植物自体や実の大きさが違うという話もあって,今のところ結論が出せていない。
 このように,いつもことばのことが気になる。気にならない人も多いようだが,そういう人とぼくとはかなり違う世界に住んでいるような気がする。この件については,別にぼくらのほうが優位に立っていると言いたいわけではない。ただ,こういう疑問が共有できる人と,会話が多いに盛り上がるのは事実である。
22:12:23 - yhatanaka - No comments - TrackBacks