院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

28 September

外国語の「読みかた」

 ちょっとした必要があって読み直している外山滋比古『思考の整理学』に,外国語の読解について示唆に富む記述があった。

 ことばでも,流れと動きを感じるのは,ある速度で読んでいるときに限る。難解な文章,あるいは辞書首っぴきの外国語などでは,部分がばらばらになって,意味がとりにくい。残像が消滅してしまい,切れ目が埋められないからである。
 そういうわかりにくいところを,思い切って速く読んでみると,かえって,案外,よくわかったりする。残像が生きて,部分が全体にまとまりやすくなるためであろう。(p.63)

 こうした経験なら何度もある。英語に比べてかなり読解に苦労するフランス語で特にそうだ。
 何より文章は,意味を伝えるために書かれている。少なくとも第一義的には,そうだ。そうした文章を,残像,つまり文脈を無視してバラバラ・ズタズタに切り刻んでみても,内容の理解には到達できない。
 ぼくが教えている予備校でもこんなことがあった。それなりに英語力を持っているある生徒の模擬試験の成績が伸びない,というか,かえって下がってきている。話を聞いてみると,時間が足りないと言う。そんなはずはないのだが,さらに聞いてみると,センター試験レベルの英文読解の問題文をいちいち(機械的な)英文解釈的アプローチで読んでいるというのだ。どこかでよけいな知恵をつけられたらしい。「君たちのわかっているというのは思い込みで,正確な読解とは…」的なことを言われて,それを鵜呑みにしたのだろう。ぼくはある程度時間をかけて,正しい読解とは何かを諭した。わかってくれたようでその後は内容重視の読解スタイルを習得し,センター試験直前の模試ではかなりの得点をとり,無事第1志望大学に合格した。
 全体は部分の単なる総和ではない。外国語の読解においてもそうだ。外山の言う「残像」,つまり文脈をふまえて解釈する必要がある。たとえば辞書を引くにしても,流れ,すなわち周囲の語句との意味的関連をふまえなければ,適切な解釈にたどりつくことができない。ましてや,単語集の無味乾燥な訳語だけでどうにかしようなどというのは,真剣に外国語と向き合おうとするのであればおよそ適切な姿勢ではない。
 あまりに慎重になりすぎるのはかえって逆効果だ。外山はこうも言っている。「映画のフィルムもごくゆっくり映写すると,画面は明滅して,介在する空白部がスクリーン上に白く映し出され,連続感は崩れてしまう」(同上)と。
 ことばに対する正しい認識を広めるために,ぼくのような生半可な言語学者でも役に立つ部分がまだまだあるのかもしれない。
17:04:39 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

21 September

英文の読みを極める

 学問的な英文を読むためには,ただざっと眺めるのではなく,また単に機械的に直訳するのでもなく,自分の頭でしっかり考えながら読むことがきわめて大切だ。今回は以下の英文を題材にして考えたい。

The idea of evolutionary progression is simple and seductive, and despite the rages of intellectual giants like Stephen Jay Gould and Richard Dawkins, it has been very hard to dislodge this notion from the popular consciousness. ... But evolution has not proceeded in straight lines―many of the dinosaurs were certainly sentient, and certain groups such as the raptors had social organization. ... Progress is not unidirectional on Earth, which renders the concept's application beyond our planet difficult at best. (Richard Corfield (2007) Lives of the Planets: A Natural History of the Solar System. Basic Books. p.53)

 大きなポイントとなるのは下線部の文の太字の部分だ。学術英文を読みこなすうえでの必須ポイントである名詞化である。とりあえず,名詞化をもとの動詞に,所有格を主語にそれぞれ転換するという基本をふまえて考えるのだが,ここで1つ注意しておきたいことがある。それは,名詞化されると能動・受動の対立が形式上表現されなくなってしまう(言語学的に言うと「中和される」)点だ。つまり,the concept's application beyond our planetのもとの形は以下の2つのいずれか,ということになってしまうのである。

  1. the concept applies beyond our planet

  2. the concept is applied beyond our planet


この2つの解釈の違いは,ある意味微妙ではある。しかし,それでも違いはある。自動詞applyの場合はその考えかたの基本的性質から自然に当てはまってしまう,という意味あいがあるのに対して,他動詞の受動態be appliedの場合には,たとえ表現されていなくても動作主(通常byの句で表される)の存在が含意される,という違いだ。ここでは,無理に当てはめようとしてもあまりうまくいかない,という意味になると考えられるから,2.の解釈のほうがより適切だと考えられる。
 もう1つの問題はbeyondの解釈である。『新編英和活用大辞典』を引いてみると,自動詞・他動詞とも基本的な連語であるtoの他,領域を表すinともあわせて用いられることがわかる。残念ながら電子辞書の例文検索などを活用してもapplyとbeyondの連語関係は確認できないが,領域のinとの関係も含めて考えると,「その考えかたを地球以外の惑星にも当てはめること」と解釈することができる。
 この文のwhich以下が第5文型の無生物主語構文になっていることにも注目しておきたい。これも多くの人がなかなか習熟できないポイントであるからだ。しかし,無生物主語を原因・理由または条件として解釈し,O+Cを文の形で前面に出す,という基本がわかっていれば,そう難しいものではない。whichは先行する節の内容全体を承けるから,「だから,その考えかたを地球以外の惑星に当てはめようとしても,まったく無理だとは言わないが,かなり難しくなってしまうのである」とすればよい。at bestも定訳の「せいぜい」などに満足せず,ここでの具体的な意味を考えるとよいだろう。
16:18:44 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

04 September

英単語の「覚えかた」

 タイトルに「つられて」違うものを期待してきた方には,最初にお断りしておきたい。これから述べるのは,けっして効率的な暗記の方法ではない。
 予備校の授業でもよく話すのだが,ぼくはいわゆる「単語集」というのを使って英単語を覚えたことはない。もちろん,英語教師として一定の興味を持っているし,高校時代に長崎弦弥の『奇跡の英単語』を買ったこともある。最近では『東大英単』も買ってみた。しかし,あの手のものに実際に手をつけたことがないのだ。だから予備校生には,「ぼくに単語の覚えかたを聞くな」と常々言っている。少なくともぼくには,あのようなものを最初から最後まで覚えるような芸当はできない。挫折するのが関の山だ。何より,つまらない。ゲーム的感覚では取り組めるのかもしれないが,それで英語が読み書きできるようになるかというと,はなはだ疑わしいと感じている。
 それでうまくいくのか?という疑問に対しては,「現にぼくの場合にはうまくいった」と答えるしかない。ではどうするのか? とにかく文章を読むのだ。できれば本を1冊。この時,片っ端から辞書を引くというアプローチもありえるかもしれないが,何も義務にする必要はないと思う。引きたければ引けばいいし,引かなくてもすみそうなものは引かなくてもよいだろう。
 1人の著者が特定のトピックを扱った本を読んでいれば,同じ単語が何度か出てくる。単語を覚えようという気があまりないから,前に辞書を引いた記憶は残っていても,意味を覚えていないことがある。あまり気にせず,もう一度引く。
 フランス語でも同じである。英語に比べて圧倒的に語彙力が弱いから,辞書を引く回数も必然的に多くなる。若い頃に比べて記憶力も衰えているせいか,何行か前で調べた語をもう一度調べることになる。こんな時には電子辞書の「ヒストリ」機能が便利だ。大学院入試の時も言語学の論文などをフランス語で読むなどして勉強していたが,その時も特に単語を覚える努力はしなかった。
 それでも単語は覚えられる。何より,外から与えられたものではなく自分で調べた結果のほうが,その過程で考えた分記憶に残りやすい。似たようなトピックの本を何冊か読み終える頃には,少なくともその分野の関連語はそれなりに頭に入っている。専門的な語だけではない。文章のほとんどはいわゆる「基本語」だから,そうしたものもある程度は身につく。
 単語集で身につけられるという人にとやかく言うつもりはない。でも,ぼくにはあんなもので単語を覚えるという芸当はまず無理だし,個人的にはおすすめしない。
20:25:59 - yhatanaka - 1 comment - TrackBacks