院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

30 October

副詞+派生形容詞の解釈

 英語の特徴の1つとして,動詞から名詞や形容詞を派生して用いる点が挙げられると思う。しかもそれにともなって,動詞がしたがえる要素,たとえば目的語なども,形容詞や副詞に転換した形で表現される。英文読解のやっかいなポイントの1つである。
 以前このブログの「研究に必要な英語力」という記事で,emotionally responsiveという句をrespond to emotion(s)と転換して解釈する必要がある,ということを書いた。動詞respondが形容詞responsiveに転換され,これにともなってto emotion(s)がemotionallyになっているのだ。だから,このemotionallyを「感情的に」と訳してみてもなかなかピンとこない。
 実は「感情的に反応する」という訳にはもう1つ問題がある。それは,この「感情的に」が「理性を失って,感情をあらわにするさま」(『明鏡国語辞典』)という意味で解釈される可能性が高く,この解釈では原文の意味とさらにずれてしまう点だ。
 それはともかく,このemotionally responsiveのような副詞+派生形容詞の解釈は,学術英語を読むうえではかなり重要なポイントであり,同時に学習者がなかなか習熟しにくいものでもあると思う。ちょうどこんなことを考えていたときに読んでいた,Richard Wilkinson and Kate Pickett (2009) The Spirit Level: Why More Equal Societies Almost Always Do Better. Allen Laneで格好の用例があったので,とりあげて解説しておきたい。まずは1例。

At an intuitive level people have always recognized that inequality is socially corrosive. (p. x)

これを「社会的に破壊的な」などと解釈してしまうのは考えものだ。しかし,実際に英文読解を指導していると,このような訳を書いている人がかなり多く見られる。しかし,corrosiveをもとの動詞corrodeに戻し,sociallyがその目的語societyに対応すると考えれば「社会を衰退させる」となり,inequality is socially corrosiveは「不平等だと社会はダメになる」とかなりわかりやすくとらえることができる。
 もう1つ同じ本から用例を見ることにしよう。

And it is surely because material differences provide the framework round which social distinctions develop that people have often regarded inequality as socially divisive. (p.29)

これも同じように[V]divide [O]societyと転換して読むと,「不平等だと社会はまとまりにくくなる」「不平等があると社会が分断されてしまう」といった解釈ができる。
 これは単なる翻訳の問題ではない。というのは,socially corrosiveを「社会的に破壊的な」と訳してしまう人は,おそらくsocially corrosiveの意味がわかっていないと思われるからだ。この意味・内容が正確に把握できていれば,「社会的に破壊的な」という訳にはきっと違和感を覚えるはずではないだろうか。
16:49:51 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

26 October

「すごい」日本語

 街中で「すごい」日本語を見かけることがある。書いた本人はまじめなのだろうが,少し考えてみると何とも「すごい」のである。
 なかでも印象に残っているのが,大阪・梅田の地下街「ホワイティうめだ」で数年前に見かけた広告。パソコン・スクールの広告に「素人専門」と書いてある。「初心者専門」なら何の違和感も感じないのだが,「素人専門」では何だか風俗店のようではないか。
 続いては茨城県土浦市内で見かけたもの。「時間貸駐車場/最大料金あり」と。「最大料金」というのはたぶん「1日の料金の上限」のことで,たとえば1日当たり1000円を越えて課金しない,という意味なのだろうが,「最大料金」をとられるのかと思うと何だか不安に感じるのはぼくだけだろうか。
 もう1つ,ちょっとした間違いを。やはり土浦で見たもの。JRバスの方向幕に「直通イオンSC」とある。途中ノンストップということだから,「直通」ではなく「直行」が正しい。こういうことは誰かが途中で気がつかないものだろうか。
 もっとも,こういうことは昔からあるらしい。内田百間が「ただ今食堂車はよく空いております」の「よく」について,「頻繁に」の意味ならわかるが…,といったことを書いている。
 こうやってコトバは変化していくのだろう。
17:55:02 - yhatanaka - 2 comments - TrackBacks

『みんなで国語辞典―これも,日本語』

 大修館書店から『みんなで国語辞典―これも,日本語』という本が出ている。『明鏡国語辞典』との関連で作られたもので,投稿を募って編集してある。本の形で出ている以外に,CASIOの高校生用電子辞書にも収録されている。これがなかなかおもしろい。
 たとえば「イケメン」の項には,編集委員会のつけた補注がついていて,「『メン』の解釈については『イケてるメンズ』が有力だが,『イケてる面』とする説もある」とある。使われはじめて10年くらいの語ではないかと思うが,もうすでに語源がわからなくなりつつあるというのが興味深い。同じことは自転車の二人乗りを意味する「荷けつ」にも言えて,補注に「『ふたつの尻=二けつ』が語源とも」とある。
 これまでざっと読んだ中での最高傑作は「お持ち帰り」だ。これは以下のようになっている。

  1. ファーストフードや惣菜(そうざい)を店内で食べず,持ち帰ること。
    「こちらでお召し上がりですか?それともお持ち帰りですか?」
    (大阪府・35歳・女)

  2. 狙った異性を口説き落として,自宅または宿泊施設に連れ込むこと。およびその後の行為。
    「初対面なのにお持ち帰りされちゃった〜」
    (大阪府・35歳・女)


言うまでもなく,1.が本来の意味である。2.の語義が何とも秀逸で,本当に素人の投稿かと思ってしまうほどだ。「およびその後の行為」というのが効いている。こういう文体は辞書の語義説明に特徴的なものではないだろうか。持ち帰ったものは食べなければならない,という意味でも,ここまでを語義に含めたのは,(大阪府・35歳・女)の言語感覚の鋭さがうかがえる。
17:46:40 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

04 October

パンドラの「壺」?

 阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』(新潮文庫)を読んでいて,「パンドラの箱」で知られるパンドラの記述に出会った。しかし,そこには何と「箱」ではなく「壺」だとあるではないか。英語でもPandora's boxと言い,『リーダーズ英和辞典』には「【ギ神】 パンドーラの箱《Zeus が Pandora に与えた箱;禁を破って箱を開くと害悪が出て世に広がり希望のみが中に残った》」という記述がある。open Pandora's boxという成句も挙がっていて,「あらゆる困難を招く」という訳がついている。COBUILDのイディオム辞典を見ると,If someone opens a Pandora's box, they do something that unintentionally causes a lot of problems, which they did not know existed before.とあって,「あらゆる困難を招く」といっても意図せず知らないことであるという含意があることがわかる。パンドラの神話の意味をふまえればたしかにそうだ。
 『ランダムハウス英和大辞典』を見ると,Pandoraの項にPandora's boxの説明もあって,そこにはきちんと「もともとは壺」という注がついている。国語辞典もいくつか見てみると,『デジタル大辞泉』にはやはり「本来は壺」という記述がある。
 電子辞書に入っているBritannica Concise EncyclopediaのPandoraの項を見ると,Pandora opened a jar containing all kinds of misery and evil, ...となっていて,同じく電子辞書収録の『ブリタニカ国際大百科事典 電子辞書対応小項目版』には「中にすべての災いの詰まっていたかめのふたを取り…」とある。
 Wikipedia英語版ののPandoraの項にはthere is an older mention of jars or urns containing blessings and evils bestowed upon mankind in Homer's Iliadという記述がある。urnは骨壺に近いものだ。『ランダムハウス英和大辞典』には挿絵もある。さらにWikipedia英語版によると,16世紀にギリシア語からラテン語にこの話が翻訳されたときの誤訳からPandora's boxになってしまったとのこと。
 いろいろ調べてみたが,また1つどうでもよい知識が身についただけかもしれない。しかし,こういうことが意外に楽しい。
19:42:31 - yhatanaka - No comments - TrackBacks