院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

04 October

英語と聖書―In the beginning was ...

 英語を学んでいると,どうしても聖書のことが関連してくる。近代英語に大きな影響を与えたのがシェークスピアとKing James Bible(欽定訳聖書)だというからこれはしかたない。慣用句などでも聖書の表現がもとになっているものがけっこうある。英和辞典にもほぼ必ずシェークスピアの作品や英訳聖書の書名をどう略記してあるかの一覧表があって,略記形からもとの形をたどることができる。
 日本語でも有名な表現を1つとりあげてみよう。「目から鱗が落ちる」という表現がある。この表現は知っていても,これが聖書に由来するものであることは知らない人も多いのではないだろうか。『広辞苑6』を引くと,「(新約聖書の使徒言行録9章から)あることをきっかけとして,急にものごとの真相や本質がわかるようになる」という説明がある。英語ではThe scales fell (off) from his eyes.で,『リーダーズ2』には,「【聖】彼の目からうろこが落ちた《誤りを悟る, 迷いからさめる; Acts 9:18》」とある。英語での正式な書名はThe Acts of the Apostlesで,新共同訳では「使徒言行録」,新改訳では「使徒の働き」,口語訳では「使途行伝」と呼ばれている。
 実際にActsの第9章18節をNew King James Versionで見てみると,以下のようになっている(新共同訳の対応箇所をあわせて示す)。なお,この部分はパウロが回心する,使徒言行録のなかでは割と有名な場所である。

Immediately there fell from his eyes something like scales, and he received his sight at once; and he arose and was baptized.

すると,たちまち目からうろこのようなものが落ち,サウロは元どおり見えるようになった。そこで,身を起こして洗礼を受け,

このようにたどってみると,英語表現もよりよく理解できるのではないだろうか。
 さて,前置きが長くなってしまったが,そろそろ本題に入ろう。タイトルでもとりあげた,In the beginning was ...という表現,これは,ヨハネによる福音書(英語ではThe Gospel According to John)の出だしの部分にもとづくものである(やはり新共同訳の対応箇所をあわせて挙げる)。

In the beginning was the Word, and the Word was with God, and the Word was God.

初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。

この表現は...の部分にいろいろな言葉を入れて使う場合が多い。たとえば,Richard DawkinsのThe Selfish Gene第2章の出だしはIn the beginning was simplicity.となっている。日本語に訳すなら「はじめに単純さありき」(ついでに言うと,In the beginning was the Wordを「はじめに言葉ありき」と訳すのは,どうやら文語訳聖書の影響のようである。ただし,文語訳聖書の該当部分は正確には「太初に言あり,言は神と偕にあり,言は神なりき」である)となるだろう。
 この記事を書くのに少し調べていたら,おもしろいことがわかった。ギュツラフという人の訳では「ハジマリニ カシコイモノゴザル、コノカシコイモノ ゴクラクトモニゴザル,コノカシコイモノワゴクラク」と訳しているというのだ(出典:http://fuji-san.txt-nifty.com/osusume/2007/04/post_2a53.html)。「言葉」にあたる原文のギリシア語はlogosで,英語のlogicのもとにもなった言葉だ。「理性」とも解釈できるというから,「カシコイモノ」と訳してもよいのかもしれない。
20:39:52 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

01 October

「多少」とmore or less

 日本語の「多少」には2つの意味がある。『明鏡国語辞典』を見ると,

  1. 多いことと少ないこと。多いか少ないか。「多少にかかわらず配達します」

  2. いくらか,少し。「多少ドイツ語が話せる」「コンピューターのことは多少は知っている」


とあり,1は文字通りの解釈で,2は熟語的解釈ということができる。
 英語にもmore or lessという,似たような組み合わせの表現があるが,意味はやや異なる。『ジーニアス4』のmore or lessの項を見ると以下のようになっている。

  1. [形容詞・名詞を修飾](人・状況によって)多かれ少なかれ,程度の差はあれ,多少とも He was more or less satisfied with the test results.彼は多かれ少なかれテストの成績に満足していた。[※引用者注:この例文は「彼はテストの成績におおむね満足していた」としたほうが適切ではないか]

  2. [動詞・名詞・形容詞・副詞を修飾]およそ(approximately),約,だいたい(roughly)

  3. [動詞・名詞・形容詞・副詞を修飾]ほとんど(almost)

  4. [否定を強調して]まったく(…でない)

  5. [独立して]まあまあ(です)

  6. [〜 of the [one's]+単数名詞・単数代名詞;名詞的に](…の)多少


ざっと見てわかるのは,「程度の差はあれ」と「およそ,だいたい」の意味に分かれるということだ。
 興味深いのは,日本語の「多少」は少ないほうに意味が変化しているのに対して,英語のmore or lessは多いほうに変化している点だ。英語のmore or lessについては,『院試塾の現場から』の記事「比較級の意味とmore or less」でぼくなりの見解を提示したが,日本語の「多少」についてはそうした見解をまだ持ち合わせていない。
09:34:45 - yhatanaka - No comments - TrackBacks