院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

22 April

start 〈人〉 on 〈薬〉とそのバリエーション

 前から気になっていた語法の1つに,start <人> on <薬>というのがある。たとえば,以下のようなものである。

But I started her on L-DOPA, despite my misgivings, on June 18, 1969. (Oliver Sacks, Vintage Sacks. p.60)

これはSacksのAwakeningsの一節。嗜眠性脳炎の患者にL-DOPAという薬を投与して,一時的ながらふつうの生活を取り戻させた話だから,薬を投与するといった表現は多く出てくる。このstart <人> on <薬>は「<人>に<薬>の投与を開始する」という意味だ。
 これに近い例として,『ジーニアス4』にはstart a patient on milk「患者に牛乳を与えはじめる」という用例がある。語義は「[SVO1 on [in] O2]<人・物などが>O1<人>にO2<商売・物など>を始めさせる」と,少々抽象的でわかりにくいが,「<人>に<薬>を始めさせる」ということだから,少なくとも『ジーニアス4』の語義だてにしたがうかぎり,上の引用もこの語義のものと考えてよいだろう。
 ところで,このon自体はどのような意味を持っているのか。OALD8の9番の語義は以下のようになっている。

eating or drinking something; using a drug or a medicine regularly
e.g., He lived on a diet of junk food.
The doctor put me on antibiotics.

上の引用例,ならびにジーニアスの用例のいずれも,この意味のonを含んでいると解釈できる。なお,LDOCE5COBUILDでは,薬に関する意味を独立した語義としている。また,OALD8の2番目の用例のput <人> on <薬>はLDOCE5にも同趣旨の用例が見られる。
 Sacksの文章から,いくつかのバリエーションを見ておこう。

  1. When Miss R. has been on L-DOPA for several weeks its advantages invariably become overweighted by its disadvantages, and she returns to a state of intense "block," crises, and tic-like impulsions. (p.69)

  2. She has been placed on L-DOPA five further times, each with an increase of dose by degrees to about 3.0 gm. per day. (p.69)

  3. Yet, sooner or later, all patients maintained on L-DOPA started to show these strange, unstable states―and with the FDA approval of L-DOPA in 1970, their numbers mounted, finally to millions. (p.49)

  4. Reducing her D-DOPA to 3gm. a day reduced the dangerous hurry and block, but led to an intensely severe oculogyric crisis―the worst Miss R. has had since starting L-DOPA. (p.66)


1.のbe on <薬>がいわば基本形であろう。2.のplace <人> on <薬>はOALD8LDOCE5の用例のput <人> on <薬>とほぼ同じ意味と考えてよいと思われる。3.はmaintain<人> on <薬>となっていて,これは「<人>に<薬>を投与し続ける」という意味。最後の例は<人> start <薬>となっているが,これの使役形とでも呼べるのがstart <人> on <薬>ではないだろうか。
18:53:19 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

「きわめる」英文読解―名詞化の解釈と可算・不可算など

 今回も名詞化の解釈を中心に,英文の的確な読みかたを検討することにしたい。

During the Viking robotic mission, beginning in July 1976, in a certain sense I spent a year on Mars. I examined the boulders and sand dunes, [A]the sky red even at high noon, the ancient river valleys, the soaring volcanic mountains, the fierce wind erosion, the laminated polar terrain, the two dark potato-shaped moons. But there was no life―not a cricket or a blade of glass, or even, so far as we can tell for sure, a microbe. These worlds have not been graced, as ours has, by life. [B]Life is a comparative rarity. You can survey dozens of worlds and find that on only one of them does life [C]arise and evolve and persist. (Carl Sagan, Pale Blue Dot. p.xix)

 とりあげるポイントは3つあるが,まずは名詞化が問題となる[B]から見ていこう。rarityは形容詞rareを名詞化したものである。名詞化形は「〜する/であること」という意味の場合(過程読み)は不可算名詞,「〜した/であるもの」という意味の場合(結果読み)は可算名詞として用いる。この場合はa ... rarityとなっているので「〜もの」という解釈になる。
 辞書を見てもこのことがわかる。OALD8を見てみよう。

  1. a person or thing that is unusual and is therefore often valuable and interesting
    e.g., Women are still something of a rarity in senior positions in business.
    His collection of plants contains many varieties.

  2. the quality of being rare
    e.g., The value of antiques will depend on their condition and rarity.


1が結果読み,2が過程読みだ。a ... rarityが基本的には「めったに見られないもの,数少ないもの」という意味になることが確かめられる。なお,LDOCE5では,1にbe a rarityが挙がっており,to not happen or exist very oftenと定義されている。用例はVisitors were a rarity in the village.で,「村を訪ねてくる人はめったにいなかった」と訳すことができる。これをふまえてLike is a rarity.を訳すと,「生命はあまり多くないものだ」とすればよいだろう。
 続いて,comparativeについて検討しよう。「比較的(な)」としても間違いではないが,もう少し詳しく見ていくことにしたい。OALD8では1の語義にmeasured or judged by how similar or different it is to sth elseとある。この語義自体は特に注目すべきものでもないが,用例とそれに添えられている補足説明が重要であるように思われる。

なお,LDOCE5では上記の2つを別々の語義として扱っている。
 英和辞典もあわせて見ていくと,「比較的(な)」という意味のcomparativeには「どちらかと言えば,他と比べれば」から「かなり,相当」まで,かなりの意味の幅があることがわかる。これをさらに狭めるために,文脈を検討してみよう。[B]の直後の文が参考になる。数十個の惑星を調べて生命が存在するのはたった1つ,ということなので,comparativeは「かなり,相当」の意味で解釈し,文全体は「生命はめった存在しないものだ」と考えればよい。なお,名詞化をほどいて解釈するとLife is (something) comparatively rare.となる。
 続いては[A]を考えよう。ここは解釈が難しいわけではない。なぜthe red sky ...ではなくthe sky red ...となっているかを考えてみてほしい。実はきわめて単純な話で,even at high noonがredを修飾しているために後置修飾になっているのだ。
 最後に[C]。通常,andなどの等位接続詞を用いて3つ以上の要素を接続する場合,A and B and Cではなく,A, B and Cの形にする,とされる。しかしここでは,arise, evolve and persistではなく,arise and evolve and persistとなっている。これはなぜか。arise, evolve and persistとした場合には,3つの内容がいわばひとまとまりととらえられる。しかし,生命は誕生(arise)したからと言って,それが進化(evolve)し,さらに生き続ける(persist)という保証はどこにもない。その意味あい,つまり,この3つのどこで切れてもおかしくない,ということを表すために,「あえて」A and B and Cという形を用いていると考えればよい。
09:52:12 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

16 April

構文の解釈と文脈―同格の名詞句か,譲歩の分詞構文か

 まずは以下の英文を見てほしい。

Writing, a cultural tool, has evolved to make use of the inferotemporal neuron's preference for certain shapes. "Letter shape," Dehaene writes, "is not an arbitrary cultural choice. The brain constrains the design of an efficient writing system so severely that there is little room for cultural relativism. Our primate brain only accepts a limited set of written shapes. (Oliver Sacks, The Mind's Eye. p.74)

太字の部分は,一見すると同格の名詞句が挿入されているように見える。しかし,本当にそうだろうか。ぼくはむしろ,この部分が譲歩の分詞構文になっていると考えて,「文化的道具ではあるが,書記体系というものは…」と解釈したほうがより適切であると考える。
 この理由は文脈に求めることができる。下線部2箇所を見てほしい。ここから,筆者は(少なくとも上記引用部分に関して)文化というのが制約のないくらい多様で予測不能なものだという前提に立っているものと思われる。しかし一方で,書記体系というのは脳によってかなりきつく制約されている,と対比的に述べている。この関係から考えると,a cultural toolという挿入句は譲歩を表す分詞構文と見たほうがうまく解釈できるのではないか。
19:01:00 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

have difficulty (in) Ving―inの有無は何で決まるのか?

 have difficulty (in) Ving「Vするのに苦労する」という表現を知っている人は多いだろう。辞書の記述を見ると,この表現のinは入れないのがふつうである,あるいは,inを入れるのはかたい表現である,といった注記がある。実際に英文を読んでいても,inがない場合のほうが圧倒的に多いと感じる。しかし今回,同じ著者が同じ本(Oliver SacksのThe Mind's Eye)の中で,しかも1ページも離れていないところで,inのない形とある形を使っているのを見つけた。
 まずはinのない例から。

これらの例から,Sacksも基本的にはこの表現をinなしで用いている,と言ってよいだろう。
 しかし,最初の例の次のp.20には,以下のような文がある。

She had no difficulty in finding the fruit and vegetable section, or in identifying apples, pears, carrots, yellow peppers, and asparagus.

inのない例がhave difficulty Vingの形であるのに対して,上の例がhave no difficulty in Vingとなっていること,つまりnoの有無に何か意味があるのかもしれない。しかし,ぼくはむしろ,上の例では2つのin Vingの句が等位接続されている点に注目すべきだと思う。もしinがなければ,identifyingがdifficultyにつながることがかなりわかりにくくなってしまうのではないだろうか。しかし,inがあることによって,また,andの前後でそのandがくり返されることによって,構造がずいぶんわかりやすくなるのではないか,ということだ。
09:37:53 - yhatanaka - No comments - TrackBacks

07 April

名詞化の解釈

 ぼくが名詞化にこだわるようになった原点も,筑波大学で英語学を学んだときにまでさかのぼることができる。先輩が卒業論文で扱っていた。ついでに紹介しておくと,基本となる文献はN. Chomskyの"Remarks on Nominalization"である。
 専門的なことはともかく,英文読解においても名詞化をほどいて解釈するのが大切なことは,これまでにも力説してきた。今回は以下の英文で考えてみよう。

The primate fear of the dark must be a comparatively recent development. (Carl Sagan (1978) The Dragons of Eden: Speculations on the Evolution of Human Intelligence. p.146)

この文には名詞化が2つ出てくる。最初はThe primate fear of the darkで,primateが主語,of the darkが目的語に対応し,日本語では「霊長類が暗闇を怖がる(こと)」と解釈できる。もう1つはa comparatively recent developmentである。これについては,developmentが可算名詞として用いられている(aがついている)点に注目する必要がある。名詞化には過程読みと結果読みとがあるが,可算名詞の場合は基本的に結果読みである。もとの動詞develop自体も解釈に注意が必要だ。ここでは「生じる」を出発点にしよう。a comparatively recent developmentは「比較的最近生じたもの」となる。
 上記を総合して上の引用文を訳してみると,「霊長類が暗闇を怖がるようになったのは,どちらかというと最近のことに違いない」となる。今回もまた,直訳よりもずいぶんわかりやすくなった。
19:53:19 - yhatanaka - No comments - TrackBacks