sampleを辞書で引いてみると,実にいろいろな訳語が載っている。たとえば『ジーニアス英和辞典』を見ると,名詞としては
- 見本,標本,サンプル;実例
- 商品見本,試供品
- [統計]標本,抽出標本
とある。この他に,たとえば医療の場面でblood sampleと言うとsampleは「検体」と訳すことになるなど,文脈に応じて多様な訳語を考えなければならない。
動詞のsampleをやはり『ジーニアス』で見ると
- …の見本をとる;…の見本をとって試す[試験する];…を試食[試飲]する
- …を実際に試す,経験して知る
- [音](音色をコンピュータで調整するために)〈音〉を取り出す,サンプリングする
となっている。
この訳語をすべて覚えようとするととてもではないが,中核的意味をきちんとイメージでとらえておけば,その場に応じた訳語を考えることができる。こうした場合に図解が役に立つ。
上では名詞から検討したが,sampleの中核的意味は動詞の用法から考えたほうがわかりやすい。以下の図を見てほしい。
動詞sampleは,ある母集団からその一部を抽出する,という意味だ。その一部は母集団全体の代表となることが意図されている。たとえば,試食するのはほんの小さなかけらであるが,そのかけらから商品の味がわかると思って試食する。「実際に試す,経験して知る」の用例として『ジーニアス』にはsample the hardships of seafaring life「海上生活をしてみて辛苦を知る
」というのが挙がっているが,これも短い時間の海上生活の体験からその全体像を知る,ということだ。
動詞が抽出の「過程」を表すのに対して,名詞はその「結果」を表す。図解してみると以下のようになるだろう。
上でblood sampleのsampleを「検体」と訳すべきだと述べた。採取する血液はわずか数ccであるが,その数ccを検査することで,全身の血液という母集団について知ろうというのが血液検査である。統計学の「標本」というのも同じ考え方に基づいている。
単語を覚える,と世の中では簡単に言う。そのために用いられるのは,多くの場合ただ訳語がわずかな用例とともに載っている「単語集」だ。一見,単語集で単語を覚えるのが近道だと思えるかもしれないが,たとえばこのsampleを見てもわかるように,根底にある基本的なイメージをきちんと理解するのが,実はいちばんの近道なのだ。