院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

「常識」を疑う

 「常識」を英語で何と言うか,と問われたら,common senseだ,と答える人が多いだろう。しかし,実際のところはそう単純ではない。
 例として,以下の大学入試英作文問題を検討してみよう。

 地球上にはこれまで人類が記載した限りでも百五十万種の生物がいる。これらの生物の多くは,人間とは違ったやり方でその生を営んでいる。当然のことながら,われわれが当たり前だと思っている常識は,しばしば通用しない

 下線部をどのように訳すだろうか。「常識」を和英辞典で引いたり,common senseを英和辞典や英英辞典で引いたりすれば,「常識=common sense」というのは単純すぎることがすぐにわかるはずだ。『プログレッシブ和英中辞典』を引くと,「常識」は以下の3つに分けてある。

  1. [思慮分別]common sense

  2. [周知のこと]common knowledge

  3. [妥当なこと]


「われわれが当たり前だと思っている常識」は文脈から考えても「思慮分別」のことではないと思われ,ここですでに「常識=common sense」ではすませられないのではないかと判断できる。なお,この辞書の例文として,「そんなことは常識だよ」をEverybody knows that!としてあるのも興味深い。
 続いて,common senseを英和辞典を引いてみよう。『プログレッシブ英和中辞典』を見ると,「常識的判断,良識,分別;共通感覚」という訳語が挙がっており,注意事項として,「だれでも持っている知識という意味での『常識』はcommon knowledge」とある。少し注意して辞書を引いていれば,「常識=common sense」という誤った考え方はせずにすむのだ。
 さらに英英辞典を引いてみる。LDOCEを見ると,common senseとはthe ability to behave in a sensible way and make practical decisionsだとしてあり,やはり「思慮分別」の意味しかないことがわかる。
 以上の検討作業から,少なくとも上の問題の「常識」をcommon senseと訳すことはできないと判断できる。それでは,下線部はどのように訳せばよいのだろうか。「常識」の意味を今度は国語辞典で確認することにしよう。たとえば『明鏡国語辞典』には「一般の社会人として,だれもが共通してもっている知識や分別」とある。「一般の社会人として」はここでは該当しないと考え,また「分別」もここでは関係ないとすると,「誰もが共通してもっている知識」のことを,上の問題文の筆者は「常識」と言っているのではないか,と判断することができる。
 ここで下線部全体をみると,「われわれが当たり前だと思っている」=「常識」ではないか,と思える。だとすれば,「われわれが当たり前だと思っていること」とすれば事足りるのではないだろうか。これなら簡単だ。関係代名詞のwhatを使えばよい。「当たり前だと思っている」はtake ~ for grantedが使える(興味があればぜひ確認してみてほしい。たとえばMacmillan English Dictionaryには,to expect something always to happen or exist in a particular way, and not think about any possible problems or difficulties)から,what we take for grantedと処理することができ,下線部全体ではwhat we take for granted often does not apply to themとすればよいだろう。
 今回の英作文問題も,1対1対応では処理できない。それでは1対多にして,「常識」にcommon senseとcommon knowledgeを対応させればよいのか。そうではない。大切なのは,自分の頭でしっかりと考え,辞書を最大限に活用し,常に最適のものを選び取る「姿勢」「習慣」を身につけることだ。「最小の努力で最大の結果」を得たいというケチな考えでは,外国語は身につかない。上の問題の出題者も,そういうメッセージを発しているとぼくは思う。

posted at 20:36:14 on 11/21/05 by yhatanaka - Category: 英語

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