英文をきちんと読むためにどんな知識・理解・能力が必要であるかについては,このブログや『
院試塾の現場から』でも何度か述べてきた。要するに,きちんと読むためには英文にていねいに接し,正確に理解しながら読むことがきわめて大切だ,と言ってきたつもりだ。今回は,実例でそれをいっしょに確かめていこう。以下の引用を題材とする。
Jacques Monod's book Chance and Necessity (1971) caused (1)something of a stir (2)on its publication, chiefly on account of (3)his total rejection of any purpose within the cosmos. All that Monod was doing was exploring the (4)implications of (5)a genetically driven account of reality, in which accidental changes were propagated by DNA, and subjected to the "teleonomic" filter of natural selection. (Alister McGrath (2005) Dawkins' God: Genes, Memes, and the Meaning of Life. p.43.)
下線部のポイントを順に検討していこう。まずは(1)である。ポイントはsomething of a ~という表現だ。somethingもofもaも,もちろん知っている語ではあるだろうが,「何かおかしいぞ」と思って辞書で調べようという気になれるかどうかが問題だ。『ジーニアス英和辞典』を引いてみると,something of a ~という成句として「《略式》[通例肯定文で] ちょっとした…;かなりの…」と説明している。用例の1つは,I found it something of a disappointment.「それにはかなりがっかりしました」で,I found it rather disappointing.とほぼ同じ意味とある。ついでながら,ratherの意味にも注目しておいてほしい。
続いて(2)のon its publicationだ。ここのポイントは2つある。1つは前置詞onの意味,もう1つはits publicationの名詞化である。このonはon Vingのon,たとえば
On hearing the news he turned pale.(『ロイヤル英文法』)のonと同じものだ。やはり『ジーニアス英和辞典』を見ると,18番の語義として「[動名詞または動作を示す名詞を共に] …と同時に,…するとすぐ;…のすぐあとで;…すると(when)」とある。用例にも動名詞が続くものと「動作を示す名詞」が続くものの両方があり,後者に該当するものにはon receipt of the money「金を受け取るとすぐ」やOn her death, her house was sold.「彼女の死後すぐに彼女の家は売られた」がある。特に2番目の用例は,引用文でのonの用法を考えるうえで有意義である。on Vingを機械的に慣用表現として暗記するのではなく,なぜonが用いられているのかを少しでも突き詰めて考えようとすれば,この解説にはたどり着けるはずで,そうしないのは「知的怠慢」以外の何ものでもない。
もう1つのポイントである名詞化だが,ここでは名詞化が受動態に対応する点が重要だ。すなわち,ここのits publicationはit was publishedという受動態から生じた名詞化なのである。言語学でよく知られている例としては,the city's destruction (by the enemy)というのがある。これはthe city was destroyed by the enemyから生じたものだ。名詞化につく所有格は主語を表すが,これは能動態の主語に対応する場合もあれば,受動態の主語に対応する場合もある。
(3)のポイントに移ろう。ここも名詞化である。名詞化形に続くofは,元の動詞が他動詞であればその目的語,一部の自動詞の場合にはその主語を導く。この場合はもとの動詞rejectが他動詞なので,その目的語に対応すると考えればよい。所有格についての考え方は(2)とまったく同じだ。あとは,形容詞totalは元々副詞totallyであり,rejectが名詞化されるのに伴って形容詞になったと考えればよい。(3)の部分が生じる過程を簡単に図解すると以下のようになる。
(4)は語句の意味の詳細な検討が必要となる事例だ。「implication=含蓄」という単純な暗記ではとうてい正確な理解には到達できない。きちんと辞書を引き,その記述を十分に確認することが大切なのだ。『ジーニアス英和辞典』の2番目の語義に「密接な関係,影響」という訳語があり,用例にもHis appointment will have broad implications for the future Japan-US relations.「彼の就任は将来の日米関係に幅広い影響をもつであろう」とある。と言っても,この語義はきちんと元の動詞implyまでさかのぼって考えることができる。
COBUILDを見ると,The implications of something are the things that are likely to happen as a result.と解説があり,A→Bというimplyの根本的意味から派生したものであることがわかる。
最後の(5)は-ly副詞の解釈とdrivenの意味が問題となる。まずはdrivenから考えよう。実はこれがなかなかやっかいである。というのも,辞書でdrivenを引いてもたいした情報は得られないし,driveのもとの意味から考えるのもかなり難しいからだ(「動かす」というdriveの根本的意味から生じた用法ではあるが,かなり抽象的なレベルまで意味が拡がっているので)。『ジーニアス英和大辞典』には,-drivenが「連結形」としてdrivenとは独立した見出しとなっており,「…に影響を受けた,…に適合する,…によって動く,…に反応する」と説明している。ぼくならこれに「…を中心とする」を加える。問題となっているgenetically drivenもこの解釈で考えていけばよい。
ちなみに,やはり『ジーニアス英和大辞典』を後方一致検索してみると,chain-driven,computer-driven,consensus-driven,consumer-driven,demand-driven,event-driven,menu-driven,order-driven,owner-driven,quote-driven,sail-driven,technology-drivenが複合語として挙がっており,これらを見ると「…主導の」といった訳語が適切である場合もあることがわかる。
-ly副詞の解釈については,[名]gene→[形]genetic→[副]geneticallyという派生過程を考えてみればよい。上の複合語の例からわかるように,-drivenの前に来る要素は名詞で,driven by XがX-drivenという形になっている。以上から,gene-drivenがgenetically drivenとなっており,その意味は「遺伝を中心とする」だろうと推察することができる。
このように考えながら英文を読むことで,きちんとした理解に到達することができる。これまでの英文に対する接し方を反省する機会となれば幸いだ。