院試塾ブログ
インターネット大学院予備校代表・畑中泰道のブログ

大西泰斗,ポール・マクベイ『ネイティブスピーカーの英文法』研究社

 大西さんはぼくの大先輩だ。といっても,お会いしたことはたぶん一度しかないと思う。大西さんの記憶にもたぶん残っていないのではないだろうか。
 この本はずいぶん前に一度読んだ。最近,たまたま読み返してみたので,紹介したい。
 この本のテーマを一言で言うなら,「直観の復権」だろう。この本と,それに続くシリーズでは一貫して,一見無味乾燥と思われる英文法のルールや多様に思える語の意味の背景には,きわめて単純かつ明確な概念が存在することが示されている。実は,これは認知言語学の中心となる主張でもある。
 直観の重要性は,少し考えてみればわかるはずだ。ネイティブスピーカーは,無味乾燥な規則によって言語を操るわけではない。頭の中にある概念と言語形式とを対応させることが,言語能力の主な作用である。言語習得が一定年齢の時期にきわめて簡単に行われる,という事実を見ても,そこに複雑怪奇な規則があると考えるのは不自然である。
 だからといってこの本は,「習うより慣れろ」的なことを言っているのではない。基本である,実はごく単純な文法がしっかり身について始めて,英語が使えるようになると説いている。
 それでは,英語の難しさとは何に由来するのだろうか。簡単に言えば,「現象の切り取りかた」や「視点の置きかた」の違いである。たとえば,英語では名詞の加算・不可算や単数・複数を常に意識するが,日本語ではそれらをあまり意識しない。「閑さや岩にしみ入蝉の声」という芭蕉の句を英語に訳す際に,「蝉」が単数か複数かが問題になったという話をどこかで読んだことがあるが,このエピソードはこうした違いを如実に物語っている。
 この本を読めば,英文法に関する見かたが大きく変わるだろう。一般向けの本であるから,認知言語学に関する知識など一切不要である。大切なのは,できるだけ具体的なイメージを頭に浮かべる訓練をしながら読み進めることである。

posted at 22:53:33 on 10/01/04 by yhatanaka - Category: 読書録

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